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バレエ シャンブルウエスト
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トリプルビルについて

舞踊評論家 児玉初穂先生のブログに「トリプルビル」の評論を掲載していただきました。

 

 

バレエシャンブルウエストのトリプルビルを見た(6月18日 オリンパスホール八王子)。恒例のトリプル・ビルは、『ドン・キホーテ』第3幕よりグラン・ディベルティスマン、田中祐子振付『heads or tail(表と裏)』、今村博明・川口ゆり子振付『四季』という構成。古典バレエ、モダン創作、創作バレエと、変化に富んだプログラムである。

幕開けの『ドン・キホーテ』第3幕は、ボレロ、ファンタンゴに、キトリ、バジル、友人2人によるグラン・パ。キトリの吉本真由美は、明るい性格を反映した踊りと勢いあるフェッテ、バジルの橋本直樹は、さりげない決めのポーズとスマートなソロが見どころ。二人の成熟したエネルギーは、華やかなコーダで全開した。ソリストは松村里沙、橋本尚美、斉藤菜々美、ジョン・ヘンリー・リードの熟練者が勤め、若々しいコールドバレエ、スタイリッシュな男女ファンタンゴ・アンサンブルが脇を固めた。

2作目の『heads or tail(表と裏)』は、人間の様々な内面を擬人化し、その葛藤を抽象的な筆致で描いた作品。田中は昨年、認知症を扱った文芸作品のドラマティックな舞踊化に成功している。今回はコンセプトがやや分かりにくかったが、ダンサーの個性は十二分に発揮された。「善」を踊った山本帆介(サンフランシスコ・バレエ団)の成熟した懐の深い踊り、「傲」を踊った橋本の色っぽい存在感、「陰の力」を踊ったリードの野性的かつ父権的な力の行使(善と傲をリフトする)、少女役に抜擢された若手 川口まりの音楽的で瑞々しい踊りと、それぞれに見応えがあった。男女アンサンブルの振付にも工夫があり、動きそのものを紡ぐ力を証明している。

最後の『四季』は、グラズノフの同名曲に振りつけられたクラシカルな創作バレエ。ゲストを含めたバレエ団全員が登場する楽しさ、当て書き(振り)の面白さが横溢する。今村と川口(ゆ)のバレエ人生全てが注ぎ込まれた快作だった。「愛の女神」川口が、「地の王」リードと共に四季の変遷を見守る。王の使者にはノーブルな山本とハンガイ・アルガイスク。最初の「冬」は、山田美友と貫渡竹暁によるクラシカルな霜のパ・ド・ドゥに始まり、深沢祥子による透明感あふれる氷のソロ、吉本(真)、吉本泰久、宮本祐宣による爽快な霰のアレグロ、そして闊達な雪のアンサンブルで締めくくられる。「春」は、使者 江本拓の幾何学的な美しい体が圧巻だった。薔薇の精を思わせるピンクのオールタイツで得意のバットリーを見せる。小鳥 川口(ま)の清潔なクラシック・スタイルも際立った。続く「夏」は、黄金色の使者 土方一生の音楽的で美しい踊りが牽引。森の精 松村の明晰な踊り、罌粟 橋本の眠気を誘うゆったりとした踊りに、矢車草、麦、水のアンサンブルが加わる。「秋」は、頭に花輪を飾ったバッカス風の使者 染谷野委の元気のよい踊り、実り 田島栞の切れ味鋭いフェッテを中心に、にぎやかなバッカナーレが繰り広げられた。

川口(ゆ)とリードは冒頭、また合間を縫って、舞台中央階段に佇み、世界を統括する。最後はリスキーなリフト満載のアダージョで、王者の風格を示した。川口は美を超えた真の存在、バレエの規範に対する信仰の体現者である。リードはその価値を完全に理解し、騎士道精神でサポートを遂行した。田中作品で魔性を見せたリードは、善悪を兼ね備えた、引き出しの多いダンサーである。

2017.07.06